蘇ったあの頃の味【パワー軒】稀少な二天一流の剛剣その2
いよいよ、20年数年ぶりに食べる機会が訪れたわけです。
店の前に立つと「燕三条」の文字がデカデカと掲げられています。
この店舗の前は既に何回か通り過ぎていましたが、燕三条ラーメンがメインの扱いとなっていた為に昔食べたパワー軒とは気が付きませんでした。
当時は白い超濃厚なとんこつラーメンと醤油ラーメンだけだったので、燕三条ラーメンは存在していなかってのです。
この時点ではまだ昔のパワー軒と同一の店だという確証はありませんでしたので、店に入り手がかりを探してみます。
まず券売機で食券を買うので選ぼうとしますが、やはりメインは燕三条ラーメンとなっています。
たしか昔食べていたのは、塩豚骨と表示されているのものがそうではなかったかとこちらのボタンを押します。
店主と思しき方に食券を渡しますが、昔はヒゲを生やしていて、もっとマッチョな記憶があったので、「どことなく面影があるかな」程度の認識です。
そして期待を押さえつつ待っていると、目の前にラーメンが出てきました。キクラゲがのっているヴィジュアルが記憶の片隅にアクセスし、この時にようやく昔食べたパワー軒だということが分かりました。
白く濁ったスープを口に入れると、たしかにあの頃の味を呼び覚まして美味しいのです。
しかし、しかし何かが足りないような気がします。
「あの頃の超こってり濃厚ってこんなもん?」
まあ、自分の記憶が思い出補正で少し美化されていたのだと思い、その日は店を出ました。
ちょっとさみしい気持ちながらもそれほど気にはしていません。なぜならメインに掲げられている燕三条ラーメンが気になっていたからです。
暫くして、この興味を魅かれて再訪することになります。
新潟県燕三条市のご当地ラーメンという事ですが、自分は初めて聞く名前でした。
味は魚介豚骨と最近増えているタイプだが、これはレベルが違います。どっちつかずな中途半端さがなく魚介のダシと背油豚骨スープが素晴らしいバランスでマッチしています。
ここでようやく店主の方と20年数年ぶりに食べた経緯と、このラーメンがすごく美味しいということをお話ししました。もちろん前回食べた塩豚骨がイメージと違っていたとはこちらからは、言ってません。
店主のほうから話された中で、
「塩豚骨ラーメンは昔に比べると少しとろみを抑え薄目にしたが、昔の濃さに戻そうと思っている。」
というようなことを言われていました。ここでピンときました。
なるほど、前回食べたときに感じた物足りなさはコレだったんだと合点がいき、それから数か月経過しました。
この間も何回か食べに行きましたが、毎回、燕三条ラーメンのみ頼んでいました。
その日もいつもの通り注文しようと思っていたところ、ふと「濃くする」と言われていた言葉を思いだして試しに塩豚骨を頼んでみることにしました。
そしてゆっくりとスープを口に含むと、前回食べたときと明らかに違うドーンという濃厚な豚骨の味が広がりました。
そうです。言葉通り、見事に20年前の味が蘇り、超こってりで濃厚さを取り戻したラーメンは思い出補正なんかではなかったことを確認させてくれました。
通常、系統が異なる味のメニューがあった場合は両方良くないか、メインの方のみが美味しいことが多いです。
しかしパワー軒は違う。魚介とんこつと超こってりとんこつ両方がすごいレベルで同居しています。
この瞬間にマッチョだった昔の店主を思い出し、中学の頃にハマった宮本武蔵にまで記憶は飛んで、剛腕による二天一流の文字が浮かびあがります。
もう二度と見ることが出来ないと思っていたイメージが、こうして現実として味わうことができ、気が付くと、刀を掴み両手を振り上げて仁王立ちしている大男の影がヌゥっと目の前に現れるような、そんな気がした日でした。
こってりが好きな方はぜひ味わってみて下さい。